Another Story by BALMUDA Technologies

小さなスマートフォンのつくり方

#03 ストレスのないUIデザインを考え続ける

バルミューダ株式会社 ITプロダクツ本部 商品設計部

土田洋之 (つちだ・ひろゆき)

バルミューダ株式会社 ITプロダクツ本部 商品設計部

榛葉啓介 (しんば・けいすけ)

業界20年超のベテランと、異業種からやってきた新人。キャリアの差こそあれ、2人がともに目指すのは、あくまでユーザーが心地よいと感じるスマートフォン体験に他ならない。

目次(6分で読了)
スマートフォン体験でもっとも大事なこと
BALMUDA PhoneのUIとは
開発の拠り所は、自分も1ユーザーであるという心構え
ソフトウェアの更新で体験の深度を極めていく

スマートフォン体験でもっとも大事なこと

── 今回登場するのは、BALMUDA Phoneの開発に途中から加わった2人だ。土田洋之(以下、土田)が入社したのは、バルミューダが社内向けにスマートフォン事業構想を発表してから1年後。それ以前は携帯電話メーカーや通信キャリア等に20年以上勤め、スマートフォンのソフトウェア開発に携わってきた。この道のベテランは、なぜ転職先にバルミューダを選んだのだろう。

土田「成熟したスマホ市場に新規参入する事例は非常に珍しく、だからこそとても難しい仕事になるのは明らかでした。そこに参画するリスクを承知の上で、これは自分にとって大きなチャンスとチャレンジになると思ったんです」

── もう一人の榛葉啓介(以下、榛葉)に至っては、BALMUDA Phoneが発売されてからの入社だ。しかもバルミューダの事業とは異なる分野から来たという。

榛葉「13年ほど、自動車を主とした広告制作をやってきました。プロダクトと密に過ごすうち、次は開発に近い部分に関わりたくなりました」

── そんな2人を紹介することで見えてくるのは、開発現場の新陳代謝だろう。生活家電で名を知られたバルミューダがスマートフォンをつくるというニュースは大きな話題となったが、作ることがゴールではなく、それを使う人の体験が良くなるためのチームビルディングは絶え間なく行われている。

UIチームデザイナー榛葉 (写真左)とチームマネージャー土田 (写真右)

── 土田と榛葉が所属しているのは、画面を通したスマートフォンのあらゆる体験を構築するUI(ユーザーインターフェイス)チーム。スマートフォンの体験で最も大事なことをたずねたら、土田はこう答えた。

土田「ストレスがないことが一番。そこには心地よい動きという数値化し難いポイントも含まれますが、それすらも定義するところに踏み込んでいきます」

榛葉「スマホに関して言えばいかに目的まで最短でたどり着けるかが大事だと思います。BALMUDA Phoneは特にその部分を大事にしているので、できることを担保しつつ、操作手順を可能な限り短くする。それが僕らのチームが果たす役割です」

BALMUDA PhoneのUIとは

── BALMUDA Phoneはホーム画面ひとつとっても、UIのオリジナリティが発揮されている。アプリのアイコンが所狭しと並ぶ状態を避けるため、ホーム画面のレイアウトは主要アイコンだけが並ぶよう設計されている。また使用頻度の高いアプリを集約できるパーソナルストライプを使用することで、ホーム画面はさらに見やすく、使い勝手の良いものに。指でなぞるだけでスマートにアプリを起動できるのもパーソナルストライプならではの魅力だ。

それだけでなく、愛着をもって使っていただくために、パーソナル感を出すためのデザインも工夫されている。例えば壁紙は偽造されにくいもの、紙幣やパスポートに用いられるような紋様を用いた。そしてストライプは帯状の模様やイニシャルを施すことで自分の持ち物を判別できるようにするヨーロッパ伝統のデザイン手法「マーカージュ」をヒントに作られた。

様々な画面の検証を行う、デザイナー 榛葉。

── 独自の操作性や世界観を保つため、BALMUDA Phoneは発売後も日々アップデートし続けていると土田は言う。

土田「BALMUDA Phoneが挑んだカスタマイズは、とにかく手間がかかるし、アップデートの検証も大変です。それでも、ホーム画面一つ取っても独自の体験価値を届けることにこだわり、実現のために、妥協せずに取り組みました。実はこのようなバルミューダの姿勢は、業界でソフトウェアに長年携わってきた人間にとっては驚き以外のなにものでもありませんでした」

開発の拠り所は、自分も1ユーザーであるという心構え

── 土田が磨き上げたアプリの一つが「スケジューラ」だ。BALMUDA Phoneには、「スケジューラ」の他に「メモ」や「計算機」など独自開発したアプリがインストールされている。あえてベーシックな部分に着目したのは、利用頻度の高いアプリならなおさら快適で心地よく使えるべきと考えたからだ。

今のスケジューラの形に落ち着くまでにも様々な検証が行われた

土田「バルミューダのスケジューラは、人がカレンダーに合わせるのではなく、使う人の都合に合わせて使うことができます。このコンセプトはユニークでした。一般的なスケジュール管理アプリは、月別カレンダーを基本に曜日の行を構成する仕様ですが、バルミューダのそれはタイムラインを軸に指のピンチイン/アウト操作で1年先までもシームレスで確認できるのです。従来のカレンダーに慣れた感覚だと最初は戸惑いますが、実際に使ってみると自分をセンターとして時間の流れを捉えるので、分かりやすい。またこのデザインは、画面の大きさに依存しない見やすさも備えていました」

── アプリ開発に精通していた土田は、スケジューラの開発過程でバルミューダのものづくりの真髄を見た思いがしたという。

土田「私がスマホプロジェクトに参画して最初に心配したのは、アプリのプロトタイプが正しく動くかでした。ですが短期間での開発だったにもかかわらず、予想を上回る出来で上がってきた。初開発の会社がこのクオリティの高さで、という点にもびっくりしましたし、社長の寺尾の、わずかな違和感も見逃さない集中力の高さにも驚嘆しました。すぐに気付かされたのですが、バルミューダがそこまでこだわるのは、製品を使うユーザーの気持ちをとことん考えているからなんです。つくり手が忘れがちな“自分も1ユーザーである”という心構えは、榛葉も持っている感性と似ているかもしれませんね」

── 土田の突然の振りに、榛葉は顔の前で掌を素早く動かし始めた。

榛葉「土田がスケジューラを例にして言ったように、BALMUDA Phoneは使ってもらえばわかる良さに満ちていると思っています。たとえばピンチイン/アウト操作も、店頭で触れるだけではその特徴と使い勝手が伝わらないかもしれません。けれども使ってくれる人が増えていけば、その体験の心地よさが広まっていくと信じています」

ソフトウェアの更新で体験の深度を極めていく

── 榛葉の言葉を形にするように、バルミューダは様々な方策を設けて小さなスマートフォンの体験機会を提供してきた。

BALMUDA Phoneの発売から4ヵ月後の2022年3月、「スケジューラ」をGoogle Play ストアで無料公開した。BALMUDA Phoneのコンセプトを象徴するアプリをより多くの人に体験してもらおうという活動は、予想を上回る反響を呼んだ。
2ヵ月後の5月には大規模なアップデートを実行。システムフォントを独自開発の「AXIS Balmuda」に変更した。美しく読みやすいフォントに改めたのは、スマートフォンの利用で大半を占める「文字を読む」に費やす時間をよりよい体験にするのが目的だった。

BALMUDA Phone専用フォントの「AXIS Balmuda」。

── 以上のBALMUDA Phone発売以後の経過でもわかるように、スマートフォンにとってハードウェアの完成は分岐点に過ぎず、ソフトウェアの更新によって進化を、土田と榛葉の言葉を借りれば体験の深度を極めていく。そのための仕事をIT業界のベテランと新人が突き進めていくときに重要なのは、おそらくただ一つ。土田がバルミューダへの参加で改めて思い知らされた、また榛葉が自分の考えの拠り所とする、「自分も1ユーザーである」という視点に他ならないだろう。

文:田村十七男
写真:大石隼土

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