Another Story by BALMUDA Technologies

小さなスマートフォンのつくり方

#05 ミニマムから最大を引き出すカメラ画質のチューニング

バルミューダ株式会社 ITプロダクツ本部 商品設計部

木島貴行(きじま・たかゆき)

バルミューダ株式会社 イノベーション本部 プロダクトデザイン部

髙野 潤 (たかの・じゅん)

コンパクトボディを第一に優先したBALMUDA Phoneに、大きなレンズや複数カメラという選択肢はなかった。今回は、許された1基のカメラで最高の画を撮る方法を探求し続けた、エンジニアにスポットを当てる。

目次(8分で読了)
30有余年のカメラ開発キャリアを有するエンジニア
スマートフォンのカメラで表現する固有の味わい
感性を技術で形にしていくデザイナーとエンジニアのリレーション
発売半年前に追加された料理モード

30有余年のカメラ開発キャリアを有するエンジニア

── 目まぐるしいカメラの進化に身を置きながら、フィルム時代からスマートフォンまで、変わらない価値とは何かを探索し続けているエンジニアがいた。

BALMUDA Phoneでカメラ開発を担当した、木島 貴行(以下、木島)だ。 30有余年のカメラ開発キャリアを有する木島がバルミューダに入社したのは2021年4月。BALMUDA Phoneが発表される7ヵ月前だった。

木島「バルミューダがユニークな扇風機やトースターをつくる国産の生活家電メーカーであることは知っていました。前職が外資系メーカーだったので、もしこれが人生最後の転職になるなら、今度は日本のメーカーのために働きたいと思ったのです。ただ、私のような経歴を持つ人間がこの会社に必要だった理由は、入社するまでわかりませんでした」

── 木島が最初の国産カメラメーカーに勤めた当初は、フィルムカメラの全盛期だった。だが、開発を任されたのは、フィルムの代替となる専用のイメージセンサを立ち上げ、将来を見据えたデジタルカメラを事業化することだったという。その経験を生かして移った外資系メーカーでも様々なデジタルカメラの開発に従事した。さらに転職した外資系メーカーではスマートフォンのカメラに携わった。

木島「驚きましたよ。前職でスマートフォン開発の規模感を知っていましたから、バルミューダの会社の規模でそれに挑むなんて、ずいぶん思い切ったことをやるなと。それが入社直後の感想です」

── しかし木島はひるむどころか、それこそが待ち望んだ戦いと胸を躍らせたという。

スマートフォンのカメラで表現する固有の味わい

── 木島がスマートフォン・プロジェクトに加わった時点で、BALMUDA Phoneのハードウェアはおおむね決まっていた。カメラのスペックも同様だった。

木島「そのあがりの品質を見るのが私の担当でした。仕様が単眼のカメラと決まっていたので、その中で期待値を超えた結果を出す、ただそれだけでしたね」

── 期待値以上を発揮するために木島が知恵を絞ったのは、“らしさ”を主張する開発だった。

木島「スマートフォンに搭載される以前から、カメラの開発に求められたのは画質の向上でした。そこは基本部分の開発を高めていけば必ず上がっていきます。それに加えて、個々の製品が持つ独自の画づくりのあり方について私は考え続けていました」

── 木島は、バルミューダらしい画質について探求を開始した。最初に話を聞いたのは、社長の寺尾だった。

木島「写真に何を求めるかを聞かれて、私は『見た通りを写す』と答えたのです。あくまで持論ですが、優先させるべきはこの目で見た通りを残すこと。それに従えば、暗い部分は暗いままでいい。これはデータの記録ではなく、写真の延長線上の考え方です。ですから、『見た通りを写す』と応じました」

── 対して寺尾は、「ちょっと違う」と返した。

木島「記憶に残るものを落とし込むのが写真。色合いなどに強弱をつけたほうがユーザーの記憶に近いのではないか、と。なるほどと思いましたし、その考え方に沿う技術的な対応策はすぐに浮かびました。この話し合いでもっとも重要だったのは、バルミューダとしてどういった画質がユーザーに喜ばれるかということでした」

── そのやり取りの後で寺尾は、バルミューダがこれまでに発表してきた写真を参考にしては、とアドバイスを送った。中でも参考にしたのは、バルミューダによるレシピ写真の数々。代表的プロダクトであるキッチンシリーズから生み出されたこの写真は、トースターや炊飯器などを使って実現するおいしさを、シズル感をもって撮影されたものだった。レシピを通してユーザーとのコミュニケーションを発信する。その思いが詰まった多くの写真が、木島が求めたバルミューダの画質を絞り込んでいく上で貴重な資料になったという。

── その数々の料理写真やバルミューダ製品写真を撮影したのは、前回着信音楽の記事で登場した、プロダクトデザイナーの髙野 潤(以下、髙野)である。

感性を技術で形にしていくデザイナーとエンジニアのリレーション

── なぜプロダクトデザイナーの髙野が写真撮影を任されることになったのか。この経緯を髙野自身に聞いてみた。

髙野「最初は、カメラが好きなので撮ってみただけなんです。それが認められたというか……」

これまで数々のビジュアルを撮影してきた髙野

── 自分でつくったプロダクトや製品だからこそ、こう見えてほしいという視点が写真に現れるという。例えば、髙野がデザインを担当したBALMUDA The Speakerもその例だ。

髙野「スピーカーの写真は本社の屋上で撮影しました。思い入れがあるから気持ちが入ったんでしょうね、ファインダーをのぞいていて、ビッと来る角度がありました。けれど僕にはプロカメラマンが持っている再現性がない。レシピの撮影でも、ひたすら料理を美味しそうに撮りたかっただけなんです」

髙野が撮影した “BALMUDA The Speaker”の写真
“ひたすら料理を美味しそうに撮りたかった”というジャムトーストの写真

── 製品を使った際の体験を重視するバルミューダで数々のビジュアルを撮影した髙野が、木島へ画づくりのアドバイスを送るようになり、2人で何度もディスカッションを繰り返したという。髙野に、木島との話し合いの一部を聞いた。

髙野「たとえば美味しそうな料理を見るときは、案外フォーカスが狭いんですよね。その狭さがむしろ料理の色鮮やかな記憶になっていくような気がしたんです。そんなふうに自分がこれまでバルミューダで撮影してきた際の感覚的な部分を伝えました。それを理解して技術的に落とし込んでいったのが木島です」

髙野のアドバイスを受け、木島がチューニングした後(左)と初期画像(右)

木島「それが私のエンジニアとしての側面ですからね。画質を決めていく中で、髙野の話は1枚の写真の印象がバルミューダらしくなる方向へ導いてくれました。それでさらに全体の仕上がりが明確になったのは、本当に大きかったです」

発売半年前に追加された料理モード

── 木島はすでに確定していたフォト(スナップ)、人物、夜景、ムービーの4種の撮影モードに、新たに料理モードを追加出来れば、と切り出した。それはBALMUDA Phoneの発売まで半年を切ったタイミングだったという。

木島「スマートフォンのカメラでは、1枚ずつの写真個々で味付けを変えられないので、平均的かつ同じセッティングで最適化するのが難しい。髙野らの話を聞いて、料理はデフォルメしたほうがいいと思い、ならば料理モードが必要と提案しました」

── 発言には勇気が伴ったという。なぜなら、前職までの常識が頭をよぎったからだそうだ。

木島「過去の経験上、発売半年前の仕様変更はあり得ないと思っていました。そんなことを言い出しても通るはずがない。そう思いながらも発言してみたんです。そうしたら、『キッチン家電をつくってきたバルミューダだからこそ意義のあるモードになる』と提案を受け入れてくれました。改めて、思い切ったことをする会社に来たと思いました」

── この突然のモード追加について、髙野はこう振り返った。

髙野「現場には緊張感が走りましたよ。でも、実際に料理を撮ってみたら、自分が使った一眼レフみたいな写真になったんです。そんな1枚を一般の人でも撮れるのが木島の狙いですが、見事でしたね」

木島「カメラ担当として、一眼レフみたいは最高の褒め言葉」と木島は目を細めた。

サンプルのために木島は日々様々な写真を撮影
昼食時にもBALMUDA Phoneで撮影を欠かさない木島

── 5番目のモードを追加した開発は猛然と進み、いよいよBALMUDA Phoneは、発売の日を迎える。しかし、発売して間もなく、ユーザーから撮影画像が緑になる現象の報告が相次ぐ。これは一定条件下で起きるバグと判明し、1ヵ月後にソフトウェアアップデートで改修した。

木島「短時間で更新できたのは、京セラの皆さんのおかげです。技術的な部分にとどまらず、お客様により良い体験をしていただくように素早く解決したいという想いをしっかり理解いただいていました」

── 2022年5月に行ったソフトウェアアップデートでもさらなる画質の向上に加え、シャッタースピードの速度向上など、カメラ体験の向上に努めている。

BALMUDA Phoneにバルミューダらしい画質を与えた木島に、その心中を探ってみた。

木島「スマートフォンでいろんな人が手軽に写真を撮れるようになったのは、とてもいいことだと思っています。そのカメラの進化の中で、何も気にせずいい写真が撮れたと喜んでもらえたら、技術者冥利に尽きますね。使う人に試していただきたいのは、光の多い野外の撮影です。暗い場所とのメリハリを意識した仕上がりを目指しましたから、奥行きのある写真が残せるのではないかと思います。長くカメラに関わってきて思うのは、写真はパーソナルな記録ですから、ユーザーの記憶に残るような画質というコンセプトをBALMUDA Phoneで追求し続けることに、大きな喜びを噛み締めています」

── エンジニアとして、あるいは一人のカメラ好きとして、多くのユーザーに撮影体験のおもしろさを再認識してもらいたい願いとともに、木島はそう答えた。

執筆:田村 十七男
撮影:大石 隼土

BALMUDA Phoneで撮影した写真

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