Another Story by BALMUDA Technologies

小さなスマートフォンのつくり方

#06 手帳の専門家が磨きをかけたスケジューラの体験デザイン

バルミューダ株式会社 ITプロダクツ本部 商品設計部

黒本和美 (くろもと・かずみ)

紙の手帳からデジタルのアプリへ。グラフィックデザインからUIデザインへ。 「BALMUDA Scheduler」のアップデートに携わったニューフェイスが体験した、バルミューダのものづくりの思想とは?

目次(7分で読了)
独自開発アプリのスケジューラ。予定入力機能がアップデート
紙のデザイナーが驚いた、スケジューラの発明と発見
バルミューダらしいUIデザインの源泉
開発チームの共有価値は「テイスティ」

独自開発アプリのスケジューラ。予定入力機能がアップデート

「時の流れは一直線なのに、従来の月や曜日で区切られたカレンダーで予定を確認するのは、もっとも合理的な手段だろうか?」

── そんな疑問を起点に、1日から1年までのスケジュールを、画面を切り替えずピンチ操作だけでシームレスに確認できるよう開発されたのが、BALMUDA Phoneに搭載されている「スケジューラ」だ。
バルミューダのものづくりの思想を象徴するこのアプリは、BALMUDA Phoneの発売から4ヵ月後の2022年3月、アプリ単体で利用できるようGoogle Playストアで無料ダウンロードを開始した。

そして同年11月、Ver 1.4.0のアップデートを実施し、様々な新機能が盛り込まれた。文字入力なしでタップだけでも予定を作成できる「かんたん予定入力」、予定項目の分類を見やすくした「カテゴリの設定」。これらはユーザーがよりアクティブに使いこなせるように開発された機能だ。今回登場するのは、このアップデートに参加したUIチーム/デザイナーの黒本和美(以下、黒本)である。

新たに追加された「かんたん予定入力」

紙のデザイナーが驚いた、スケジューラの発明と発見

── 黒本がバルミューダに入社したのは2022年6月。その5ヵ月後に実行されたスケジューラのアップデートでは、最終段階のブラッシュアップ作業が中心だったそうで、本人によれば「スマートフォンもUIデザインも、まだまだ勉強中の身」らしい。

彼女が謙虚な発言をするのは、これまでのキャリアにも理由がある。バルミューダ入社以前は、ステーショナリー・メーカーで16年間に渡りグラフィックデザインを担当してきた。前職では手帳の企画も数多くこなしてきたという。そこで黒本には、彼女が感じた紙の手帳とデジタルのアプリの違いをたずねてみた。

「私が長年見てきた手帳には、大きく2種類ありました。1週間の予定を曜日ごとに管理するレフトタイプ、時間軸で管理するバーチカルタイプ。利用する人はそのどちらかを選んで1年使いますが、バルミューダのスケジューラに触れて驚いたのは、その二つが一つになっている新しさでした。ピンチイン/アウト操作でレフトタイプからバーチカルタイプの行き来は自由自在だし、操作する際の動きもおもしろい。これならどちらか一つを選ばなくていいわけですから、まさに発明だと思いました」

── さらに黒本は、アナログの手帳に抱いていた危惧も、このスケジューラによって払拭できる可能性を感じ取ったという。

「この先、紙の手帳はどうなっていくんだろうと思っていたんです。紙は自分で書き込んだ予定を自ら読み返していくのに対して、デジタルのアプリは予定を通知してくれますよね。その差は大きい。書き直しの修正もデジタルはキレイです。ただし紙には、直筆で綴ることで個性が生かせる魅力がありますから、完全になくなることはないでしょう。であれば、予定の管理はアプリに任せ、自分の考えを整理するときは紙を使うという、価値の分別をはっきりさせてくれた点も、このスケジューラによる発見だと思いました」

バルミューダらしいUIデザインの源泉

── 同じデザインでもグラフィックからUIは考え方が異なる分野。キャリアを変えた理由を尋ねたところ、新しい分野へチャレンジしたい気持ちが大きかったようだ。

「これからはUIデザイン分野が伸びるとされる中で、UIデザイナーが足りていないというニュースを見たんです。この分野がどう伸びていくのか、この目で見届けたい興味もあって、それで転職を考えました。そのときに見つけたのがバルミューダのUIデザイナー求人です。年齢、性別、経験不問とあったので、思い切って未知の領域に足を踏み入れてみようと……」

── そうして迎え入れられたバルミューダで黒本は、まさしく未知のものづくりを目の当たりにすることになる。

「任せてもらったのは、予定入力画面でタップするボタンの曲線の調整や、ボタン同士の距離の詰め具合など、微細なデザイン修正でした。指先で触れたら動くというのは紙にはなかった経験だったので、何をどうすれば操作中に快適と感じるか、そこをつかみ切るのが難しかったですし、いまだに模索中です。このプロジェクトの目的は、ただ予定入力を簡単にするのではなく、使う人にストレスをかけないデジタルならではの操作で入力の手間を省くことでした。誰もが気持ち良い操作感を実現するという数値化できないゴールに向かっていたので、私が受け持った微細な修正は避けて通れない、プロジェクトの要にもなるこだわりなのだと理解できました」

── 新たに用意されるカテゴリのアイコンのデザイン修正に黒本も参加した。スポーツは何をモチーフにするのか、旅行は飛行機を示していいのか等々、チーム内では様々なアイデアが飛び交い、黒本は数多くのデザイン案を提出した。その作業自体はグラフィックデザインのキャリアが生かせた。プロジェクトに参加した時点でほぼ出そろっていたカテゴリが選考される過程には、黒本自身が「バルミューダのデザインにたどり着く思想」と思い知らされる、試行錯誤があったと聞かされた。

カテゴリ用に検討された多数のアイコンデザインの一部

「カテゴリを絞り込むために、まずは人の行動分析から始めたそうです。たとえば『レジャー』は、レジャーに関するあらゆる論文を読んで、言葉の起源にさかのぼったそうです。その分析と絞り込みからカテゴリを分類し、行動の名称が決まっていったと聞きました。そこまで論理を追求しながら、シンプルなアイコンにたどり着く。その二つが同居しているのがバルミューダなんですよね。思い入れもあるので、熱い研究から生まれたアイコンたちには愛しさを感じています」

行動分類に関する多くの先行研究や事例と実際の利用シーンを勘案しながら、カテゴリは最終的に12種類に絞り込まれた。
<開発中の画面>プロトタイプではサブカテゴリもあったが、よりシンプルな方向へシフトした。

開発チームの共有価値は「テイスティ」

── 戸惑う暇すらないほど前進していくスケジューラのアップデート。その真剣な現場に飛び込んだ黒本は、社内でよく交わされる特有の表現に惹かれていった。

「テイスティな○○とか、それはテイスティか? とか、とにかく“テイスティ”というワードがしょっちゅう耳に入ってきて、最初はどういう意味なんだろうと思っていました。ところがあるとき、ハッとさせられたんです。先ほどの、論理を追求しながらかわいいアイコンにたどり着く感性が顕著な例ですが、スピードや効率を優先させるばかりでは色気がなくなる。その狭間でユーザーが楽しいと感じられる味を出していくとき、テイスティか否かが問われるのではないかと。その感覚の具体的なところは、人に聞いて理解できるものではないでしょう。一方で、テイスティが開発チームの共有価値となることで、バルミューダらしい製品が世に出ていく。それを成し得るための感覚や価値は、私自身も数をこなすことで身に着けていきたいですが、現時点でこうじゃないかなと考えているのは、時間的にも空間的にも素敵であること。その素敵な体験をデザインするのがUIデザイナーの使命であると強く感じました」

── 初めての経験が連続した黒本に、プロジェクトを通じて感じた“スケジューラに宿るバルミューダらしさ”を改めてたずねてみた。

「BALMUDA Phone自体の思想と共通するのですが、スマホの没入感を減らすということは意識していました。それは、スマホから目を離す時間が増えれば、スマホの外で起きる様々な出来事に意識が向き、結果的に人生はより豊かになるのではないかという考えから来たものです。コンパクトで必要十分、あらゆることを直感的に最小の工数で確認できる。それがBALMUDA Phone全体のUIに共通しています。その中でもこのスケジューラは、現在そして未来の予定を俯瞰して見やすくし、入力の手間も最小限に省くことができたと思います。スマートフォンをつくりながらもいつも真ん中にあるのは使う人の人生であるという、バルミューダらしさの一端を担えたのではないかなと思っています」

── 最後に、新たな機能を追加したスケジューラは、どんな人に使ってもらいたいかをたずねた。

「スケジューラをGoogle Play ストアで公開した後、こんなレビューがあったそうです。とてもおもしろいけれど、その方には入れる予定がないというんですね。本当に入れる予定がないのだろうか。実は予定を入力する行為にたどり着いていないのではないか。もしそうなら、入力自体を簡単にすれば予定をこなしていく満足感を得られるはず。それが今回のアップデートのコンセプトでした。ですから、覚えきれないほど予定を抱えている人はもちろん、個々の予定を大事にしたい方にもぜひお薦めしたいです。個人的には、人が『これ、いいよ』と薦めているのを聞くのが好きなんです。そんな『いいよ』が広まっていくとうれしいです」

── BALMUDA Phoneのユーザー以外にも使ってほしい思いから公開に踏み切った『スケジューラ』は、Android向けにGoogle Play ストアで無料公開中。今使っている方も最新版へのアップデートが可能だ。「かんたん予定入力」等の新機能がいかに“テイスティ”か、それぞれの体験によって味わってほしい。

執筆:田村 十七男
撮影:大石 隼土

「BALMUDA Scheduler」はGoogle PlayストアにてAndroid端末向けに無料公開しています。

BALMUDA Scheduler:https://tech.balmuda.com/jp/phone/app/scheduler/

Google Playストア:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.balmuda.phone.scheduler

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