Another Story by BALMUDA Technologies

小さなスマートフォンのつくり方

#02 手のひらに馴染む小ささを目指して

バルミューダ株式会社 ITプロダクツ本部 商品設計部

直原佑哉 (じきはら・ゆうや)

小さなスマートフォンに適した部品が見つからないところから始まった挑戦。どんな困難に直面しても理想形を実現させようと努めたのは、“バルミューダのメカ屋”として譲れない思いがあったからだという。

「ありえん!」から始まったプロジェクト

── BALMUDA Phoneの特徴は軽量・コンパクト。加えて背面形状やディスプレイの外形まで曲線構成で統一したのは、持ちやすいサイズと馴染みやすい質感を求めたからだ。だが、ともすればそれらのアイデアは、プロダクトデザインにおける理想像に留まりかねない。

「仮にそうだったとしても、使う人のことを考え抜いたデザイナーの思いを可能な限り実現させ、ユーザーによろこびを届けるのがエンジニアの務め」と、直原佑哉(以下、直原)は何の衒いもなく口にした。

── とは言え直原がバルミューダでスマートフォンをつくると聞いた瞬間は、「ありえん!」とうろたえたそうだ。バルミューダ入社以前に大手家電メーカーやベンチャーで培った10年に及ぶエンジニア経験から、直接スマートフォンに関わったことがなくても、その開発規模の大きさだけはよく知っていたからだ。

「当時は同じチームだった高荷が手を挙げたからには、僕もやるしかないと思いました」

── 高荷隆文は、バルミューダがスマートフォン事業に取り組むと聞いたとき、そのプロジェクトに運命を感じた人物だ。

「新事業の発表時も研究開発部の統括をしていました。この部署は、社内のクリエイティブチームが思い描いたアイデアを具現化するのが使命です。高荷と、もう1人のソフトウェアエンジニアの3人で、どうやったらスマートフォンがつくれるか調べるところから始めました。そもそも5Gって何? がスタートでしたね」

小さなスマートフォンに必要なディスプレイが存在しない?

── BALMUDA Phoneを語る上で欠かせない、コンパクトかつ曲線だけで構成されたデザイン。毎日触れるものだからこそ優しい感触を求めたが、その丸みを実現させる上で最初の壁となったのは、小さなディスプレイだった。

「スマートフォンの開発はディスプレイがないと進まないので、まずはその調達からでした。しかし、BALMUDA Phoneのデザインに合う小さくて角が丸いディスプレイを供給するODMが一社もなかったんです。追い打ちをかけられたのは最低発注数でした。どの会社もバルミューダが想定した10倍からじゃないと受けられないと……」

(※ODM生産・・・製品または部品の設計や調達を他の企業に委託して生産供給を受けること)

── 既存のディスプレイを使わない限り設計は無理ではないか――。それが問い合わせたODM各社の統一見解だったらしい。

「そんな中、バルミューダ製品をよく知っているという方が代表を務めるディスプレイサプライヤーに巡り会えて、我々が望む数でもオリジナルを製造してくれる契約が結べました。この出会いが大きかったですね。BALMUDA Phoneのボディは白と黒で、ディスプレイの縁もボディと同色にしています。そのうちの白は光で透けやすく、近年は採用されていないという現実に直面しました。ですがそのサプライヤーは、デザインに対する僕らのこだわりを理解してくれて、白で進めることを了承してくれたんです。最初は色調整なしという条件でしたが、最終的には塗料色の調整を何度もお願いしてしまいました。本当に有難かったですね」

── 以上の経過を直原は、「そんなこんなで形になり……」と気軽にくくったものの、開発の要をものにするだけでも優に半年は過ぎていた。だが、その間の奮闘がスマートフォン開発を実現させる突破口になる。

「京セラがODMを引き受けてくれると決まった直後のミーティングでした。目指すべきデザインを説明したのですが、特にディスプレイの手配は難しいというご意見をいただき、改めてディスプレイのハードルの高さを身に染みて感じました。ただ、京セラと出会う前にサプライヤーと一体になってディスプレイの準備ができていたことが功を奏しました。既にディスプレイの調達ができていることをお伝えすると京セラの方々も驚いていましたが、そこで私たちが本気でこのデザインのスマートフォンを作ろうとしていることが伝わったのではないかなと思います」

── そのミーティングを機に話は進んだと、またしても直原は気安そうに言った。しかし話を聞けば、協業を進めた京セラの人々の苦労もうかがい知れる、壮絶な開発ストーリーがあったという。

夢にまで見た小ささの解決法

── ここまで伝えたディスプレイ一つとっても、小さなスマートフォンをつくるにはあまりにピースが足らなかった。そうした難題を解決する作業はどのように進められたのだろうか。

「ひたすら意見交換です。京セラから基盤や電池が入らないと連絡があれば、3DCAD(コンピューター・ツール)を使って状況を確認し、他社製品もたくさんバラして分析を試みて、あと2㎜寄せられるとか、金型をコンマ単位で削ってくれないかとか、様々なアイデアを出し合いました。5G仕様となるとアンテナの数も増えるんです。四角くて平らな形状のスマートフォンに見られる、お弁当を詰めるように整然と基盤を入れていく設計と異なる手法にトライし続けました。この小さな曲面の機体の中に、どうしたら中身を収め切れるか、実際に夢に出てくるくらいに。信じていた、というのが一番でした。私たちのアイデアに対し、京セラの方々はできない理由を真摯にお伝えくださいました。そうして次の手をお聞きし、それなら、こうやったら、と実現させていきました。」

CADを使って何度も設計案を練り直した。
何パターンにも及ぶサンプル表も制作。

── 京セラとバルミューダ。直原の言葉を受ければ、元より両者の間にあった規模や実績を超えて共同開発ができたのは、立つ場所を超えたエンジニア同士の意地がポジティブな化学変化を招いたからだろう。

「先に話したボディカラーも大変でした。初期型は白と黒ですが、実はどちらもスマートフォンをつくってきたメーカーにとっては苦労を強いられた色なんです。白は光が透けやすい上に、部品で異なる色合わせが難しい。黒は傷が目立つという前例があるという話も聞いていました。それでもやめるという選択肢を持たなかったのは、何があっても理想形に近づけたい思いが強かったからでしょうね」

使い込むほど味わい深くなるスマートフォンを

── 冒頭で触れた、デザイナーの思いを実現させるエンジニアの務め。ポイントは、優しいふくらみを保った背面に移る。

「バルミューダのロゴ、よく見てもらうと黒ボディには黒の、白ボディには白のスミ入れを施してあります。この色調合、1㎏の塗料に別の塗料をわずか1滴垂らすだけでも色が変わるんですね。その1滴を1.2滴、1.5滴と突き詰めながら、ボディ色とは微妙に異なるスミ入れを行いました」

── 独特の手触りをもたらすシボ加工にもこだわりがある。

「数年は利用するスマートフォンに、使い込むほど味わい深くなる要素を加えるため、背面を細かい突起が並ぶシボにしました。しかもBALMUDA Phoneのシボは、通常20ミクロンのところを80ミクロンと深くしています。その上に塗装を重ねると、触るたび突起の先から少しずつ塗装が削れていき、触れずに塗装が残る突起の根元のほうとのグラデーションができます。それによって、革製品のよく擦れる部分とそうでない部分との差のような、いわゆる経年変化の表現が可能になります。試行錯誤の末、特許申請する技術になりました。一般的にはシボに塗装すること自体が新しい技法ですけれど、それによってBALMUDA Phone独自の感触や風合いが出せるようになりました」

── 直原の語りは最後まで一定の冷静さを保ち続けていた。直面した課題に物理的な最適解を導き出すのがエンジニアである以上、個人の主観は反映しないと誓っているかのように。しかし彼も人間であれば、客観だけに留まれるものではないだろう。そこでこんな質問を投げかけてみた。そうであってもくじけかけたときがあったのではないか?

「やはりエンジニアはデザイナーのアイデアを実現させるのが仕事です。それがいかに難しくても、僕らがやり遂げれば間違いなく素晴らしいプロダクトになると信じられるから。そして、それを使うユーザーのよろこぶ顔が想像できるからです。だからこそ、もっとも理想に近い状態を見せたい。僕がバルミューダのメカ屋である以上、その思いは変わりません」

文:田村十七男
写真:大石隼土

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