Another Story by BALMUDA Technologies

小さなスマートフォンのつくり方

#04 着信音楽にエレガントな世界観を融合するまで

バルミューダ株式会社 イノベーション本部 プロダクトデザイン部

髙野 潤 (たかの・じゅん)

体験を尊重するバルミューダ製品にとって、音もまた重要な体験要素。スマートフォンの着信においてもそれは同様だ。社内で音担当と呼ばれたプロダクトデザイナーが、小さなスマートフォンに組み込んだ音づくりの経緯をたどる。

目次(8分で読了)
自ら作曲もするプロダクトデザイナー
エレガントな音を求めて
長くても5秒以内で簡潔な曲に
どこにもなかった心地いい着信音楽

自ら作曲もするプロダクトデザイナー

── プロダクトとインテリアのデザイン事務所を経て髙野 潤(以下、髙野)がバルミューダに入社したのは 2013年。最初に担当したのは、入社した年の10月に発売が決まっていた暖房器具のSmartHeaterと加湿器のRainに搭載するUniAutoというアプリ開発だったという。

※SmartHeaterは現在生産を終了しています。

その後、トースターやスピーカーなど様々なプロダクトデザインを行う一方で、ほぼすべてのバルミューダ製品の音づくりを担ってきた。BALMUDA Phoneでもその役が回ってくるが、プロダクトデザイナーを目指した学生時代には音を任されるとは思わなかったそうだ。

「高校時代にバンド活動を少し経験したこともあり、常に音楽を意識し続けていました。操作音一つ取っても、音というよりは音楽と捉えていました。音楽は、つまり体験ですよね。製品から聞こえてくるサウンドも、ユーザーにとっては体験になりますから、それを心地よくするデザインの一貫としてやり甲斐を感じています。最初に家電の操作音を担当したとき、社⻑の寺尾から言われた『コンピュータでつくる音はつまらない。楽器というのは空気の振動で音を伝えるのだから、パソコンから簡単に音が出せると思わないでつくってほしい』という言葉が念頭にありましたね」

── そんな思いを音づくりに反映させたエピソードがある。2020年6月に発売されたBALMUDA The Speakerの開発中、髙野は自らギターを弾いて作曲に挑んだ。

「最初に制作したのはスピーカーのオン/オフ時の音でした。近所迷惑になるといけないので、自宅で布団を被ってギターを弾いてつくりました。家族からは、今日は音が漏れていたよと言われてしまいましたが」

── そのベースの低音を響かせたようなサウンドは、スピーカーによる音楽に触れる瞬間の期待感を醸し出すのに独特の効果を発揮している。

「BALMUDA Phoneの開発に声をかけられたのは、2021年の初頭でした。実はそわそわしていたんです。その頃はアプリが確定し、UIデザインが決まっていくタイミングだったにもかかわらず、音に関する動きが活発化していなかった。人が少ない上に急ピッチで開発していたので、気が回らなかったんだと思います。大丈夫だろうかと心配していたら、声がかかり......」

── そうして髙野がスマートフォン・プロジェクトに参戦。かつてないほど多岐に渡る音づくりの日々が始まった。

エレガントな音を求めて

── 音も含めた体験提供をデザインしてきた髙野が、スマートフォンの着信音にもこだわったのは想像に難くない。では、果たしてどのような道筋でBALMUDA Phoneの音を生み出していったのだろうか。

「大きなコンセプトはエレガントでした。BALMUDA Phone自体がコンパクトとエレガントをテーマにしていたことが第一です。音のエレガントさは、人混みで着信があっても、どこか心地よく、周りから嫌がられない響きではないかということも話し合いました。それらのコンセプトや考えを元に、初期案を提案し、そこからエレガントの真髄を見つける言葉を探し始めました。BALMUDA Phoneには、“80ʼs Dream”や“90ʼs Tokyo”というタイトルがついた着信音が入っていますが、これらは楽曲づくりの最中に出たキーワードが元になっています」

── 言葉探しを軸に進められた音づくり。ただし、チーム内で合意が取れたイメージを具体的な着信音へと変換するには、プロの存在が不可欠だった。そこで髙野は、コーヒーメーカーのBALMUDA The Brewでも音の開発に関わってくれた、あるミュージシャンにアドバイスを求めた。

「この方が素晴らしくて、こちらが伝える雰囲気を上手に咀嚼して表現してくれました。例えば、チームから出された『ホテルの高層階にあるラウンジで流れていそうな音楽』といったリクエスト。それこそ言葉だけなら僕らの中でも共通認識を持てたのですが、そのイメージに応じた楽曲化はプロの技術なくして達成できなかったと思います」

── そんな強力なサポートを得て、髙野たちの思いは音に変わっていった。ちなみに、件の『ホテルのラウンジ』のイメージは、BALMUDA Phoneの“52F Lounge”という着信音で再現されている。

「その方と1曲あたり数十回の修正を行いながら楽曲を仕上げていき、最終的にオリジナル音源は40から50曲に達しました。何しろ着信音以外にアラーム、タイマー、バッテリー低下通知、充電開始、ビデオのスタート/ストップ、カメラのシャッターにロック解除等々、BALMUDA Phoneで鳴るほとんどの音をつくらなければならなかったのです。あえてやめたものもあります。キーボードのタップ音も用意したのですが、いかにも鳴らしているような違和感があったので、そこは聞き慣れた音でいこうと。それもエレガントの文脈に沿った判断でした」

── ちなみに、コンセプトそのままの“Elegant”という題名がついた着信音もBALMUDA Phoneに収められている。

⻑くても5秒以内で簡潔な曲に

── 音楽のプロフェショナルと音づくりを行う中で、プロダクトデザインと並行して操作音の担当を務めてきた髙野らしい遊び心も盛り込まれた。

「デザインチームがこだわった、フィルムカメラのフィルムを巻き取る音まで再現したカメラのシャッター音。これは、かなり心地いい音に仕上がっていると思います。タイマーには、前に自分が担当したBALMUDA The Toasterの音を引用しました。トースターと同じ音階で、ブサーっぽくないアレンジに変えて。好きにつくったのは、バッテリーの充電音です。キュイーンってチャージしている感じは、アメリカンコミックのヒーローがモチーフです」

「特に難しかったのは、同じタイトルで違うアレンジをすることでした。例えば“52F Lounge”というテーマでも複数パターンつくり上げるのです。着信音は鳴り続けるので、ループで繰り返す際の間の取り方も細かく分類しました。しかも開発途中でどんどん音の数が増えていきましたからね。先に楽曲づくりと言いましたが、音楽を聴かせるわけではなく、あくまでスマートフォンの音なので、⻑くても5秒以内の簡潔な曲に仕立てなくてはならない。その短い時間の中でエレガントを表現するのは挑戦的な作業でした」

同じテーマでありながら複数パターンの曲が並ぶ。

── ふと気になったのは、髙野の感性の在り様だった。感覚領域の音づくりは、何を基準に良し悪しを決めるのだろう。

「音楽が趣味なので、音に対して好き嫌いがはっきりしていました。ですから、まずは自分の好みというか感性で判断します。案外、理論より直感を優先させるほうが多いかもしれません。もちろん、デザインを行う時は理論を優先させることもありますが、ものづくりをする上では直感も大事にしています」

── 直感を大事にする髙野は、プロダクトデザイン・製品の音づくりに加え、バルミューダの写真撮影も一部担当している。この件は、次回のカメラ編で詳しく触れる。

どこにもなかった心地いい着信音楽

── 直感を大事にし、デザイナーとしてできることをやり続ける髙野。音づくりの話は自身のもつ信条に続いていく。

「BALMUDA Phoneの音づくりで一番難しかったのは、心地よさを伴う着信音づくりでした。着信音は不意に鳴ることが多く、その鳴り方は人を驚かせてしまっていると思ったのです。もちろん、知らせる音なのでわかりやすい方がいいのはわかっていましたが、例えばその通知が音楽だったら、生活に溶け込んでお知らせできるのではと考えて『着信音楽』という方向性を選択肢として創造しました。それは、大きなコンセプトとしていたエレガントに近づけたのではないかなと思っています」

── というようなセリフを何気なく口にできるのは、バルミューダに根付いたカルチャーなのかもしれない。その中で髙野には、一人のデザイナーとしてこんな思いがあるという。

「人の後追いではなく、自分だけのフィールドを見つけることです。その個人の強みをブランドとコラボし、いかに社会に貢献できるかということを大切にしたいという想いがあり、 そのためには、バルミューダが大事にしている体験価値のためにできることを試し続ける。 それが私のデザイナーとしての信条です」

── その意識を含め、プロダクトデザイナーの髙野が目指すバルミューダの音とはどのようなものだろうか。

「例えば信号機の音など、日常にはたくさんの音が溢れています。何気なく聞いているサウンドですが、そこに記憶が生まれてくるのだと思います。着信音も生活家電の操作音も、使っているときは意識しないとは思うのですが、ふとした瞬間にさまざまな記憶を想起し、それが体験に心地よく寄り添っている存在になってほしいと思います。日々の体験の積み重ねが良い人生につながっているというのがバルミューダの信じる体験価値です。音だけではなく、プロダクトをつくる時には私だけではなく、メンバー一同が同じ気持ちで、『使いやすい・心地よい』という日常の新しい発見を目指しています」

文:田村十七男
写真:大石隼土

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